今を去る三十年の昔、三|題《だい》噺《ばなし》という事|一時《いちじ》の流行物となりしかば、 当時圓朝子が或る宴席に於《おい》て、國綱《くにつな》の刀、一節切《ひとよぎり》、 船人《せんどう》という三題を、例の当意即妙《とういそくみょう》にて一座の喝采を博したるが本話の元素たり。 其の時聴衆|咸《みな》言って謂《い》えらく、 斯《か》ばかりの佳作を一節切の噺《はな》し捨《ずて》に為さんは惜《おし》むべき事ならずや、 宜敷《よろし》く足らざるを補いなば、遖《あっぱ》れ席上の呼び物となるべしとの勧めに基《もとづ》き、...
「女らしさ」とは何か
日本人は早く仏教に由って「無常迅速の世の中」と教えられ、 儒教に由って「日に新たにしてまた日に新たなり」ということを学びながら、 それを小乗的悲観の意味にばかり解釈して来たために、 「万法流転」が人生の「常住の相」であるという大乗的楽観に立つことが出来ず、 現代に入って、舶載の学問芸術のお蔭で「流動進化」の思想と触れるに到っても、 動《やや》もすれば、新しい現代の生活を呪詛《じゅそ》して、 黴《かび》の生えた因習思想を維持しようとする人たちを見受けます。 たとえていうなら、その人たちは後ろばかりを見ている人たちで、...
午後
二人は先刻《さつき》クリシイの通で中食して帰つて来てからまだ一言も言葉を交さない。 女は暖炉《ストオブ》の上の棚の心覚えのある雑誌の下から郵船会社の発船日表を出した。 さうして長椅子にべたりと腰を下して、手先だけを忙しさうに動して日表を拡げた。 何時の昔から暗記して知り切つたものを、もとから本気で読まうなどと思つて居るのではない。 男の注意をそれへ引いて、それから云ひ掛りをつけて喧嘩が初めたいのであつた。 喧嘩と云つても勝つに決つた喧嘩で、その後で泣く、ヒステリイを起す、...
舞姫
うたたねの夢路に人の逢ひにこし蓮歩《れんぽ》のあとを思ふ雨かな 美くしき女《をなご》ぬすまむ変化《へんげ》もの来《こ》よとばかりにさうぞきにけり 家|七室《ななま》霧にみなかす初秋《はつあき》を山の素湯《さゆ》めで来《こ》しやまろうど 恋《こ》はるとやすまじきものの物懲《ものごり》にみだれはててし髪にやはあらぬ 船酔《ふなゑひ》はいとわかやかにまろねしぬ旅あきうどと我とのなかに 白百合《しろゆり》のしろき畑のうへわたる青鷺《あをさぎ》づれのをかしき夕《ゆふべ》...
婦人と思想
行うということ働くということは器械的である。従属的である。それ自身に価値を有《も》っていない事である。 神経の下等中枢で用の足る事である。わたしは人において最も貴いものは想うこと考えることであると信じている。 想うことは最も自由であり、また最も楽しい事である。また最も賢《かしこ》く優れた事である。 想うという能力に由《よ》って人は理解もし、設計もし、創造もし、批判もし、反省もし、統一もする。 想うて行えばこそ初めて行うこと働くことに意義や価値が生ずるのである。...
文化学院の設立について
私は近く今年の四月から、女子教育に対して、友人と共にみずから一つの実行に当ろうと決心しました。 これは申すまでもなく、私にとって余りに突発的なことであり、また余りに大胆なことでもありますが、 しかし私には、従来の私の生活と同じく極めて真剣な事業であって、短時日の間ながら、 十分慎重に、考えられるだけのことは考えて決心したつもりです。 軽率な思立ちでないということだけは断言が出来ます。 私はこの事の経過を簡単に書き、また私たちがこの事業に対する計画の摘要をも添えて置こうと思います。 *...
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